三原の家
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
photo by Kazunori Fujimoto

「三原の家 」

 広島県三原市の中心部に建つ住宅である。敷地は T 字路の突き当りに位置している。古い住宅が道路境界いっぱいに建ち並ぶ雑然とした周辺の町並みに対し、建築の控えめで静かな佇まいによって、この一帯に静謐な空気感を持込もうとした。住宅を周囲と比較して異なるスケールとし、外観から住宅の記号を排除した単なるコンクリートの構築物のように見せている。さらに道路に立つ人が建築内部を素通りして反対側の景色まで見通せる開口を持たせることで住宅とは質を異にする表情を持たせ、町並みから一線引かれた建築の存在性、物質性を際立たせている。

 依頼主からは部屋数は必要とされていたが、イメージとして倉庫のような何も無い大きな空間が望まれていた。内部には一室空間のような連続性を備えつつも多様なシークエンスがあり、生活(間取り)や室内環境(通風、採光)、瀬戸内のおおらかな外部環境との対応(外部と一体となる住空間、プライバシーの配慮)を同時に充たす空間構成が単純な構造形式で成立していることがこの地域の民家のあり方だと考えている。

 敷地の地盤面が道路から 2m 下がった高さにあったため、当初の敷地レベルを 1 階の床レベルに設定して建物の高さを押さえ道路から控えて配置した。構造は 5 枚の構造壁からなるボックスカルバート構造であり、連窓が可能となり周囲に最大に開いている。構造壁と引戸により内部空間は諸室に分節可能である。 2 階の床レベルを道路より半階上げ、腰壁を 1.5m と高めにすることで道路からの視線を交わし眺望と通風採光を確保している。道路と反対側は公共空地(水路)に面していてプライバシーが保たれている。 2 階ではこの方向に家並が見えず空や遠くの山並みだけが見え外部の広がりを享受している。建物中央にトップライトのある室内テラスと階段を設け、ここを介して 1 階からも東西に風が吹抜けるようにして建物全体をより外部的なものとしている。 (藤本寿徳 )
 


 

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